「What is Man?」― 人間とは何か?
アメリカの国民的作家、マーク・トゥエインが1906年に発表した『What is Man』は、トムソーヤの冒険の執筆者として知られる彼の作品の中でも、特に興味深いものの一つです。この著作は、19世紀末のアメリカにおける個人主義と進化論の影響を受け、人間の自由意志と決定論の葛藤を探求しています。
作品では、人間が環境や遺伝などの要因によって動く機械のような存在とされ、自由意志が後付けとされています。一方で、キリスト教の価値観と科学の発展が対立する中で、人間の行動や意思決定の形成についても問われています。トゥエインの先見性には驚きますが、当時の社会は、その考え方を受け入れることができなかったようです。
時は流れて2024年の現在、わたしたちはAIの恩恵を享受する時代に生きています。ここ近年の有力な哲学者や量子学者たちによって、トゥエインの予言が再び脚光を浴びはじめているようです。意志によって起こったというのは幻想で、実際には環境に応じて脳と体が先に動く。未来は確率的に決まっている。そのようなトゥエインが予言の裏付けがされはじめているようです。
人間と機械が分離していた時代から、人間が機械を操り、機械が意思を持ち始め、やがて機械と人間が融合し始める現代へと時は流れています。この時の流れは、最初こそ違和感や賛否両論ありながらも、やがて受け入れられていったスマートフォンのようになるのではないでしょうか。そして、人類にとってのは最大の謎は、「心はどこにあるか?」だと思いますが、大きなブレイクスルーはすぐそこに近づきつつある予感もします。
「What is Man?」 人間とは何か?
今期は、トゥエインに触発されたテーマになりました。言い換えれば、「TOKIARIとは何か?」。5シーズン目を迎えるTOKIARIのアイデンティティを意識する時期でした。いい機会なので改めてここに記しますが、TOKIARIは普遍的な服を作ることをテーマにしています。
私個人にとって「普遍」を誤解を恐れずに言葉にすれば、自我を肯定しつつ自我を律することだと考えています。優れた民藝作品に漂う、無意識まで近づいた律するセンス、とでもいいますか、それは「音をどう出すかではなく、音をどう消すか」と言った作曲家、武満徹に深く共感し憧憬している境地でもあります。
制作する環境も普遍というテーマに寄与しています。私たちのアトリエは、京都の藤井大丸という老舗百貨店のなかでアトリエ併設ショップという、かなり特殊なスタイルで製作しています。たくさんのブランドに触れ、さまざまな装いのお客様を見かけますので、より客観視できていると感じます。
アトリエは小規模で予算も潤沢にある訳ではありませんので、目が届く範囲でシンプルで納得いくものを制作しています。クリエイティヴに対する姿勢は、すでに世にあるスタンダードな形をいかに脱構築し、ブラッシュアップしていくか、ということです。シャツは短期間でなくなるほどの数を生産してフレッシュな鮮度を保つ様にし、再生産のたびに細く点検修正を重ねています。肩幅や着丈、袖丈の微調整でも大きく印象も変化しますので、大切な仕事です。
この微妙で繊細なブラッシュアップこそがTOKIARIの真髄である訳ですが、そこを可視化することによって、センスや心といった見えないものの輪郭が浮かび上がってくるのはないかと考えました。その方法のひとつとして、これらを記録に残し具体的な数値で伝える試みを始めました。
ひとつ例を挙げますと、「TKR-TOBARI-1.1.1」、旧名は ‘TOBARI GATHER LONG SHIRT’です。
TOKIARIのアイテムのなかでは、古株であり1番のセールス記録を持っています。
これらのアイテム表記をOSバージョンアップを手本にして改変しました。1.1.1の先頭の数字(メジャーバージョン)は、シルエットや襟などを根本から変更した場合に繰り上がっていきます。2番目数字(マイナーバージョン)では、素材やカフス、ポケット、寸法の微調整を表します。3番目の数字(リビジョン)では、ボタンやジッパーなどの仕様変更や機能追加を表しています。
24SS COLLECTION ‘WHAT IS MAN’
数字に変化があるアイテムほど、更新頻度が高いといえます。逆に数字に変化が少ないモデルは(現時点では)ある意味完成されていると言ってもいいかもしれません。バージョンが新しいほど洗練されていますが、とはいえ「iPhone5sが名機」と呼ばれるように、進化が美意識においては正解でもありません。
私がデザインやシルエットを監修していますが、その実、お客様からの意見から修正しているものも少なくはありません。今季からウィメンズサイズも展開が始まりましたので、特にサイズに関しては多くの方の意見を聞いています。これはブラッシュアップする上でとても重要です。
制作のなかで、思わぬバグも出現します。昨年AWでリリースした’CHAPLIN’はまさにそれでした。私自身は不満に思っていたシルエットやディテール、仕様などが、逆に面白いと評判になり、想像よりも早いペースで完売となりました。自分の完成度、満足度がすべてイコールになる訳ではないという事例です。
トゥエインの「環境が人を変える、環境が人間の行動を動かしている」、それは「環境がTOKIARIを変え、TOKIARIの行動を促す」という制作活動にも通じると感じます。また、バグの面白さの気づきもありました。現在の環境から逸脱して自我で決定する行為は、愚かで意味もなく失敗する確率が高いかもしれません。プログラムに突如発生するバグと同じようにです。しかし、そのバグから驚くべき発見や芸術が生まれることもあります。
話は取り留めのないものになりましたが、今季のコレクションはトゥエインの予言にインスパイアされて、自分達の活動が視覚化されました。あらためて、人間の可能性は無限であり、心が存在する限り、私たちは常に進化し続けられるという実感が生まれました。
PS,この文章は、私の言葉をChatGPT3.5に編集してもらっています。面白い時代になりました。
TOKIARI
中村憲一
24SS WHAT IS MAN?
MODEL : SENA,MOTOYA
PHOTO : MASAKI NAKANO
DIRECTION : KENICHI NAKAMURA